相棒が死んだ日
パソコンがね、今月の初め頃、起動しなくなっちゃったの。
思えば、ここに引っ越してきた時に買ってもらったものだった。
と思ったんだけど、正確には、数年して何かが故障してやっぱり起動しなくなって修理に出して、中身は同じ別な子が来たんだったか。
それも含めて10年程付き合ってもらった子だった。
その前は実家の家族と共有のパソコン。XP
更にその前は実家のノート型パソコン。98かな?
壊れちゃったあの子はWindows8だったかな。
初めて、自分だけ使う自分のパソコンだった。
壊れてすぐパソコン屋に持っていって、古いですねーと言われて、もう、修理できないことを聞かされた。
その時は、だろうなーと思ってた。自分も新しいのを買うつもりで行ったものね。
けど、データだけでも見られるかもしれないということで預けてその日は帰った。
なんやかんやあって、別な店で新しいパソコンを手に入れて、バックアップはなんかノートン大先生がとっといてくれてて、必要な情報はほとんどあって…………そしたら、あれ? 向こうのデータいらないや、ってなった。
で、今日、電話でパソコン屋に「処分しておいてください」って言ったら、「身分証明証の確認が必要です」といわれ、店に行ったのだった。
それで、店員さんに「ハードの破壊をする」と言われて、少し、はっとした。
自分の意思で壊すんだ、と。
自分の意思で、自分の都合で、殺す決断をしなければならないのだ、と。
10年来の相棒を…… 自分の人生の何分の一かを……。
まだ、いけたか? 手を尽くせば再び同じ道を歩めたか? と聞けばそれは無理だった。もう起動しないし。
実は、故障する何日か前から怪しい気配はあったんだ。急にブルースクリーンになってしまうとか。真っ暗になっちゃうとか。そろそろかな、なんて覚悟もしていた。
そうだ。決定的な瞬間は、8月の初めの日曜日。それが、最後日の前日だった。
パソコンでABEMAで7.2見てたの。番組の終盤、歌の頃、急にパソコンが真っ暗になって落ちてしまった。
しょうがないから続きはケータイで見てたのだった。
その後、次の日の朝、一度は起動したような気がする。
そして、ブルースクリーンになって、その画面のまま、いつまで経っても、終了せず…… 電源から消したんだったかな?
それが、普通に起動した最後だった。
色々試してはみた。コード全部抜いたり。ケータイでググってみたり。
起動しようとしても明らかにおかしくて、表示がちらついてたり、セーフモードでも起動できなかったり、同じ画面がいつまでもずーっと続いてしまったり。
で、結局、いつもの画面に辿りつくことはなかった。
今、もう既にあの子の位置は、新しい子がいて、私の生活もその子と歩み始めている。
その前だったら、迷ってしまったのかな。
ハードを破壊するのに同意して、数分くらいで、ちょっとひしゃけたハードの姿を見ながら、どこか呆気なさを感じていた。
その瞬間、頭によぎったのは、人生で何度か経験した焼き場の光景だった。
と感傷的になっても、結局、一行で終わる話よ。
『パソコンが壊れたので買い換えて古い方は処分しました。』
と。
でも、何だろう、この罪悪感は……。
新しいパソコンは起動も早いし、色々出来る、賢い、形もスタイリッシュ。
でも、ほんの少し、ちょっと慣れない所に、前の子を思いだしてる。
もう明日には完全に忘れてしまうかも知れない。
パソコンに、VAIOのゆにこんに、ずっと支えてくれてありがとうを、10年間お疲れさまを、それから、ゆっくり休んでね。